夢中人

『夢中人』レビュー

美術監督:ウィリアム・チョン/撮影:ビル・ウォン/監督:トニー・オウ

トニー・オウ監督による『夢中人』は、チョウ・ユンファとブリジット・リンを主演に据え、「現代」と「2000年前」を往還する運命的な恋を描いたラブストーリーである。
現代で出会う主人公とヒロインの関係が、2000年前に起きた悲劇と結びついていくという構造は、輪廻や宿命といった東洋的主題をロマンティックに包み込んでいる。

現代パートの空間と階級表現

現代における主人公は作曲家、ヒロインは裕福な家庭に育った女性として描かれる。
とりわけヒロインの実家は象徴的で、2階建ての広い邸宅、デザイナーズチェアや洗練された家具によって、明確に「上流」の空気が演出されている。ミリアム・チョンによる美術は、単なる豪奢さではなく、生活の余裕や文化資本までを空間に染み込ませている点が印象的だ。

それに呼応するように、ヒロインのファッションも明確にデザイナー寄りで構成される。主人公と初めて出会う場面で着用する、イエローのアクセントが入ったコートに、紫のチェック柄ワンピース、紫のタイツという組み合わせは、彼女の自立性と個性、そしてどこか現実離れした存在感を強く印象づける。

色で描かれる三角関係と心理

一方、主人公と当初の恋人は、互いに愛し合っている関係性を強調するかのように、ペアルック的なカラーリングとスタイルで統一されている。ブラウンのコートを基調に、インナーにはグリーンのシャツやニットを差し込み、視覚的にも「一対」であることが明示される。

物語中盤、主人公と恋人が別れ、ブリジット・リン演じるヒロインとの距離が縮まるにつれて、衣装は登場人物の心理を如実に映し出し始める。
恋人と別れた後、ヒロインが赤いコートを着るのに対し、主人公はブラウンから別の色味へと移行する。一方で、主人公の元恋人は、物語中盤でもなおグリーンのチェック柄コートを着続け、関係への未練や感情の停滞を視覚的に表現している。

やがて、身を引く決断をした恋人が自殺を図るという出来事を境に、主人公とヒロインは共に黒いコートをまとい、耳元まで包み込むような装いへと変化する。この黒は喪失や死の予兆であると同時に、最終的に二人が「別れ」を選択する結末を静かに暗示しているように見える。

過去パートの色彩の奔放さ

現代パートが抑制された色設計で感情を描くのに対し、2000年前の回想パートでは一転して色彩が解き放たれる。
着物姿のヒロインと、時代劇風の衣装をまとうチョウ・ユンファは、非常に鮮やかで生命感に満ちた存在として描かれ、ウィリアム・チョウらしい大胆な色彩コーディネートが存分に発揮されている。

真の始皇帝の時代を想起させる設定でありながら、そのビジュアルは史実再現というより、現代的感覚を大胆に取り入れた野心的なデザインとなっており、時代劇としては異様なほど鮮やかで独特だ。

とりわけ印象的なのが、物語終盤の過去回想において、ブリジット・リン演じるヒロインが自害する場面の衣装である。
ブラウンのチェック柄をベースに、ブルーと赤という強烈な配色が施されたその装いは、悲劇性と美しさ、そして時間を超えた情念を同時に焼き付ける。

総評

『夢中人』は、恋愛映画であると同時に、衣装と美術によって感情と運命を語る作品である。
色は関係性を語り、服装は未練や決断を示し、空間は階級と孤独を浮かび上がらせる。
現代と過去、抑制と奔放、理性と情念――その対比が視覚的に精緻に設計された一本だと言えるだろう。